第90回日本消化器内視鏡技師学会

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わかりやすい抄録の書き方

日本消化器内視鏡技師会会報No.47号(2011年9月発行)
編集委員会レポートより抜粋

1.抄録の構成

【タイトル】【目的】【方法】【結果】【考察】【結論】からなります。

1)タイトル(表題)

  • タイトルは抄録の論点(言いたいこと)を明確に表しているものです。
  • 用いる語が少なければ正確で簡潔なものになります。
  • タイトルが長い場合は~サブタイトル~をつけます。

※不適切な「タイトル」の表記例:

  1. 「○○内視鏡検査における麻酔効果の検討」
    ➡「○○内視鏡検査における塩酸ぺチジンの効果」
    理由:内容を具体的に表現していません。
  2. 「標準予防策における顔面防御の取り組み」
    ➡「○○内視鏡検査における顔面防御対策の取り組み」
    理由:ここに「標準予防策における」と入れること自体間違いです。 

2)目的(または、「はじめに」)

  • 目的は抄録の要素をまとめたもので抄録全体を把握することができます。
  • なぜ、おこなったのか、その結果どうなったか重要な要素だけを書きます。

※不適切な「目的」表記例:

  1. 「はじめに」と「目的」がわかれて述べられているもの
    理由:「目的」と「はじめに」は抄録では同義語の扱いです。
  2. 具体的に何を検討するのかが明記されてなく、結論的要素も書かれていないもの
    理由:結論的要素は「目的」の大事な要素です。

3)方法

  • 「方法」では、どんなものを使って、何を測定したのかなどの要素を簡潔に伝えます。
  • 不必要な情報は入れず、同じ情報は繰り返さないようにします。
  • 使用した医薬品や機材の商品名は最初のみ記載し、後は一般名にします。
    [2.-1)参照]

※不適切な「方法」の表現を評価した例:

  1. 方法に目的の要素が入っているもの
    理由:目的はすでに述べてあるので重複しないようしにます。
  2. 方法の項目がなくアンケート調査の表記のみで終わっているもの
    理由:状況報告ではなく、方法と表記し簡潔に説明します。

4)結果

  • 各検査や測定などの結果を述べ、客観的に事実のみを記載します。
  • 結果を解釈したり、他の知見と比較をしません。
  • 方法に記載していない項目についての結果を述べません。
  • 数字やパーセンテージなどは集計が合うよう確認します。

不適切な結果の表現を評価した例:

  1. 「結果」「考察」「結論」の仕分けができていないもの
    理由:何を訴えたいのかわかりにくく、何度も読み直さなければなりません。
  2. 「方法」と「結果」が不一致
    理由:方法に対応する記述が見当たらない。

5)考察

  • 「考察」は、理論と事実に基づいて客観的検討を行います。
  • 研究の目的や結果に集中し、「考察」は大切なことはもらさず、できる限り短く簡潔に書きます。
  • 「結果」のそれぞれの部分で示した順に論じ、情報の並べ方を配慮します。
  • 「考察」で結果を繰り返し述べません。また、結論で言い切ることを十分に「考察」で述べます。

※不適切な考察の表現を評価した例:

  1. 「○○の内視鏡検査で用いた鎮痛薬の使用は安全であった」という内容
    理由:過去にも同薬による報告事例があるが、それについてはまったく触れていません。考察では、過去の報告事例がある場合はそれについても触れて記述します。
  2. 自施設の報告と今後の希望のみに終わっているもの
    理由:結果を解釈し、結論で言いきるために考察を十分に述べます。

6)結論

  • 考察の結果決められる判断や意見を書きます。
  • 「結論」は、抄録のまとめですので短く単純にします。
  • 何を証明できたか、何を証明できなかったかをはっきりさせます。
  • この研究の知見が「どのように役立つのか」「どのような意味を持っているのか」など研究の意義を明確に主張して締めくくります。
  • どんな抄録でも考察をうまく凝縮した結論を入れなくてはなりません。
  • 「結論」は、「考察」の中に含めて省かれることもあります。

2.そのほか抄録を書くにあたってのポイント

1)全体の文章構成について

  • 抄録は演題募集時に決められている文字数や用紙サイズに収めるようにします。
  • 一文は60字以内。修飾部分を一文としたほうが読者の理解度は上がります。
  • 抄録はほとんど過去形で書きます。方法や結果は過去形で書きますが、結果についての考察や結論は現在形にします。
  • 抄録に商品名を記述する場合、登録商標には「®︎」をつけ、単なる商標には「™️」を付けます。
    例:リン酸ナトリウム製剤(ビジクリア®︎錠)、
    空気感染防止マスク (3M ™️N95微粒子用マスク)

2)書いてはいけないこと

  • 読者が文章の内容ではなくて、不適切な表現、間違った表現、遠回しの表現などにより、何を述べているのかわからない文章にならないよう注意します。
  • 科学的根拠のともなわない言葉はつかいません。「~にやさしい」「好ましくない」
    ①患者に「やさしい」 →患者に「苦痛が少ないまたは負担が少ない」。
    ②鎮痙剤投与が「好ましくない」 →鎮痙剤投与が「できないまたは鎮痙剤禁忌」。
  • 言葉の意味を正しく理解していない例
    「示唆」の意味は「結果を暗示すること、あるいはそれとなく知らせる」ことです。
    ①挿入困難例はS状結腸が長くループを形成することが多いことが示唆される。
    →・・・を形成することが多いことが原因と推測される。
    ②説明で内視鏡検査を理解してもらうことができ、不安の軽減に繋がったと
    示唆された。
    →・・不安の軽減に繋がったと考えられた。
  • 自分や他の研究者が行った過去の研究や既知の事実は、もし必要なら研究の背景として書いてもよいが、詳細は述べてはいけません。
  • 省略形は抄録の中で、はじめに定義することなく用いることはできません。
  • 図表さらに特定の文献を抄録の中で引用してはいけません。
  • 短すぎる抄録は、十分な情報を伝えられません。
  • ぼかし言葉は最小限にします。(約、ほぼ、やや、若干、ぐらい、概ね、程度、たぶん、らしい)
  • 文の中に脈絡なく「唐突な内容のことば」を入れません。読者は混乱しています。
  • 特定のメーカーの支持に当たるような表記は避けます。
    例:オリンパス→O社、ジョンソン&ジョンソン→J社

3.最後に

抄録を書き終えたら、まず、自身で校正し、次に他者にも校正をしてもらいましょう。特に、専門分野でない人に読んでもらうと気づかなかった盲点を発見してくれます。過去に報告された抄録の中にわかりやすく書かれている例がありますので参考にされると良いでしょう。

抄録の中で最も求められているものは著者の「思い」であり、価値のある研究を学会で報告したいという「強い思い」が読者に伝わるのではないのでしょうか。

本学会で皆様の思いが伝わるような抄録に仕上げていただければと思います。