会長挨拶

第68回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会
会長 河野辰幸(東京医科歯科大学 消化管外科学分野)

高度の高齢社会を迎え、さらにそれが加速しつつあるわが国においては、医学や医療はその役割と社会での位置づけがこれまでと大きく変わっていくものと思われます。日本気管食道科学会はわが国における歴史の古い学術団体の一つですが、新専門医制度の開始や保険診療における財政上の強い制約が見えてきた今日、学会としてその存立意義を見つめなおす時期かもしれません。そのような状況下で開催される第68回の総会および学術集会のテーマを「超高齢社会の気管食道科学」とさせていただきました。 そもそも本会は、気管、食道、そして咽頭・喉頭という、呼吸と食物摂取、発声など、様々な生命維持活動の中でも最も基本的な役割を担う領域を包括的に研究する組織です。この領域は発生学的、解剖学的に極めて近い臓器であり、高度の協調運動によりはじめて円滑に諸機能を果たすことができます。本領域の疾患では、生命への直接的な影響のみならず、形態や機能の異常が呼吸、摂食、発声などに重大な問題を生じ、患者のQOLを著しく損なってしまいます。

そのような意味で、超高齢社会とは気管食道科学の果たす役割が従前にも増して大きくなる社会とも言えます。関連領域の専門家が参集する本会において、私どもは診療科の枠を越えて生命の根源(呼吸・嚥下・発声)を総合的に捉え、より良い臨床活動への還元を目指して研鑽を積んできました。さらに知識と専門的技能を磨き、より高次の総合的診療技術を患者へ提供することのできるよう努めていくことがいま求められています。 東京医科歯科大学ではかつて遠藤光夫教授が昭和59年に第36回を担当させていただきました。今回の総会ならびに学術講演会は、当分野(消化管外科学)を中心とし、消化器・一般外科の他2分野(肝胆膵外科学:田邉稔教授、総合外科学:植竹宏之教授)と外科同門会、そして関連分野である耳鼻咽喉科学(堤剛教授)、頭頸部外科学(朝蔭孝宏教授)、さらに同門の臨床腫瘍学分野(三宅智教授)や分子腫瘍医学分野(田中真二教授)の協力をいただき運営致します。

会員の皆様の日常臨床と研究の更なる発展に役立つよう、今回は2つの新たな試みを準備しています。一つは気管食道科領域に欠かせない診断・治療機器と診療用薬に関連し、展示企業との学術的連携を充実させることであり、機器や薬剤の使用法などを映像で提供し続ける特設コーナーを設けます。会員の休憩スペースとしても使用していただき、飲食をしながら診療や研究のヒントも得られることを意図しています。他の一つは、ポスター発表に重点を置くことです。ポスター発表では、気道系、食道系、咽喉系他別に優れた演題を選出し、希望者にはポスターと同じ内容で口演も行って頂けるようにする予定です。賞に年齢制限は設けませんので、ぜひ多くのポスター発表をお寄せください。

今回の学術集会会場は新宿の京王プラザホテルです。発展を続ける新宿副都心ですが、コマ劇場跡地の再整備が進んでいる歌舞伎町も大きく変貌しました。新たなシンボルとなったゴジラ像の周辺には海外からの訪問者も多く、かつてとは異なり家族連れが目立つようになっています。ぜひ多くの会員に参加していただき、超高齢社会における医療活動の最も重要な担い手になるであろう気管食道科医と気管食道科学を見つめ直す機会にしていただければと存じます。