ネクストジェネレーションセッション
厳正なる選考の上、下記の企画を採択いたしました。
多数のご応募ありがとうございました。
6月23日更新
(掲載順順不同)
ネクストジェネレーションセッション
「各種の側頭骨・脳幹・大脳標本から見えてくる聴覚機能の進化と内耳奇形の病態」
モデレーター 南 修司郎(東京医療センター)
【企画の目的】
種を越えて保存される共通の形態基盤、または異なる形態基盤形成に注目することは、その器官の機能や進化、またその器官の疾患の病態について考えることに役立つ。今回、ヒトを含む様々な脊椎動物の側頭骨・脳幹・大脳について、「どれくらい同じで、どれくらい異なるのか」を整理し、聴覚の進化や、内耳奇形などの病態について考える。
【企画の内容】
- 「脊椎動物の大脳・脳幹標本からヒトの脳の起源を探る」(穐吉亮平 先生)
両生類、鳥類、ヒトの脳幹・大脳標本を観察し、皮質の構造や神経回路の構造様式において共通する形態および異なる形態の分布を比較する。脳幹・大脳の細胞構築の比較、それぞれの種が持つ行動学的特徴と脳幹・大脳の神経回路および領域特異的な形態構造を整理する。 - 「進化の観点から眺める霊長類モデル動物側頭骨を用いた発生研究 ~齧歯類モデル動物との類似点と相違点~」(細谷誠 先生)
霊長類モデル動物、齧歯類モデル動物の側頭骨を比較することで、その類似点と相違点を整理する。耳科学における分子生物学的な基礎研究において、これらの「種差」がどのように影響するかを報告する。 - 「側頭骨病理標本から見るラセン孔列と篩状斑の役割」(松田信作 先生)
ヒト側頭骨標本を用いて、蝸牛神経及び上・下前庭神経が通過するらせん孔列と上・中篩状斑の構造学的評価を行う。共に 篩状構造を示す骨構造であるが、その役割・発生過程から内耳 奇形や蝸牛神経低形成の病態を考察する。 - 「ヒト胎生期の内耳発生と18トリソミーの内耳形態」(木村優介 先生)
内耳奇形の理解のためにも内耳の発生及び進化を知ることは重要である。ヒト胎生期の側頭骨から内耳発生を解説し、さらに18トリソミー染色体異常症例の側頭骨標本を提示し、聴覚・前庭機能障害の臨床像について考察する。
【本企画によって見込まれる結果】
ヒトを含む脊椎動物の様々な側頭骨・脳幹・大脳において、種を越えた共通の形態基盤を明らかにすることができる。また、それぞれの種で失われる構造形態や新たに形成される神経回路に着目することで、進化の過程においてヒトが獲得した機能を側頭骨・脳幹・大脳の形態的特徴から議論する。内耳奇形疾患の病態やそれに対する聴覚補償手段を考える上で、重要と考える。
演 者 穐吉 亮平(獨協医科大学埼玉医療センター)
「脊椎動物の大脳・脳幹標本からヒトの脳の起源を探る」
演 者 細谷 誠(慶應義塾大学)
「進化の観点から眺める霊長類モデル動物側頭骨を用いた発生研究
~齧歯類モデル動物との類似点と相違点~」
演 者 松田 信作(東京医療センター/東京山手メディカルセンター)
「側頭骨病理標本から見るラセン孔列と篩状斑の役割」
演 者 木村 優介(日本大学)
「ヒト胎生期の内耳発生と18トリソミーの内耳形態」
ネクストジェネレーションセッション
「解剖と病態に応じたTEES手術手技のInnovations」
モデレーター 伊藤 吏(山形大学)
経外耳道的内視鏡下耳科手術(transcanal endoscopic ear surgery: TEES)では、視野角の広い直視鏡、斜視鏡を対象に接近させて拡大視が可能であるため、従来の顕微鏡では死角となっていた部位を含めて、より詳細に中耳微細解剖を観察することができる。本企画ではTEESにおける中耳微細解剖について再確認するとともに、解剖のバリエーションや病態に合わせた手術手技を開発し、より安全で確実なTEESを追求することが目的である。
京都大学の岡野高之先生には「中耳の微細解剖と内視鏡下耳科手術」というテーマで、中耳微細解剖の概説に加え京都大学で行われているcadaver dissectionによる手術手技研修について紹介いただく。東京大学の松本有先生にはTEESでtympanomeatal flapを挙上する際に最初に処置が必要となる鼓索神経について、術前CTによる走行の評価と術中操作の注意点を「鼓索神経の走行と手術中の取り扱い」というテーマで発表いただく。山形大学の窪田俊憲先生には「鼓室洞の解剖と真珠腫S2進展に対する手術手技」というテーマで、顕微鏡手術では“difficult access sites”とされ、TEESが最も威力を発揮する部位の一つである鼓室洞(STAM分類S2)のバリエーションと手術操作の詳細について、さらに防衛医科大学校の水足邦雄先生には「前上鼓室解剖のバリエーションと弛緩部型真珠腫手術」というテーマで、もう一つの“difficult access sites”である耳管上陥凹(STAM分類S1)から上鼓室にかけての解剖とTEESにおける取扱いについて講演をいただく。
TEESには「よく見える」という大きなメリットがあるが、実際の手術では詳細な中耳解剖を理解したうえで、「自ら見に行く」ことをしなければ、症例ごとの中耳解剖と病態を正確に把握し、それに対する適切な手術治療を行うことはできない。本企画では、次世代の耳科手術を担う新進気鋭の先生方より話題を提供していただき、会場の先生方とともに討論しながら理解を深めることで、より安全で確実なTEES手技のイノベーションにつながるものと期待している。
演 者 岡野 高之(京都大学)
「中耳の微細解剖と内視鏡下耳科手術」
演 者 松本 有(東京大学)
「鼓索神経の走行と手術中の取り扱い」
演 者 窪田 俊憲(山形大学)
「鼓室洞の解剖と真珠腫S2進展に対する手術手技」
演 者 水足 邦雄(防衛医科大学校)
「前上鼓室解剖のバリエーションと弛緩部型真珠腫手術」
ネクストジェネレーションセッション
「Pendred症候群研究〜日本から切り拓く次世代への展開〜」
モデレーター 細谷 誠(慶應義塾大学)
感音難聴に対するゲノム医療と創薬、新規治療法開発研究とその臨床応用が現実となりつつある中で、希少遺伝性疾患の遺伝子診断や表現型解析、基礎的病態の理解から臨床症候の幅広い理解が、治療法開発に向けた応用研究に向けてますます重要になっている。本セッションではPendred症候群研究をテーマとしてこの問題を検討したい。
Pendred症候群は、家族性の変動性進行性難聴、めまいと甲状腺腫を来す症候群として知られる。難聴と甲状腺腫を生じる疾患として、1896年にVaughan Pendred博士によってLancet誌に報告された症例にちなんで命名された疾患である。最初の症例報告から丁度100年たった1996年に原因遺伝子の遺伝子座が報告され、翌1997年には、原因遺伝子が同定されPDS遺伝子と名付けられた。本遺伝子は、現在ではSLC26A4として知られており、そのコードする一価の陰イオン交換輸送体は、Pendrin(ペンドリン)と名付けられている。
このように本疾患研究は120年余りの非常に長い歴史を持つが、特に最近20年の疾患研究の進歩には目覚ましいものがあり、多くの日本人が切り拓いてきた研究分野でもある。しかしながら、症候性難聴の中では最も患者数が多いにも関わらず、いまだに特異的な治療方法はなく、病態生理研究も一筋縄ではない。いわば耳科医の「長年の好敵手」である。本企画は、本疾患の病態生理の理解に向けた基礎および臨床研究を切り拓く、本邦が世界に誇る若手研究者4名によるセッションである。臨床遺伝学、動物実験学、細胞生物学、臨床研究と多層的な視点から、本疾患を深く理解し、臨床応用研究が発展する兆しについてを伝えたい。
本企画を通じて、希少遺伝性難治性疾患Pendred症候群という疾患像とその最新のサイエンスを感じるとともに、「基礎研究がいかにして臨床応用されるか」、「臨床応用に向けてどのような基礎研究が必要か」の理解につながればと考えている。また、本邦の若手内耳研究者の世界での活躍を肌で感じ、これから研究を志す若手耳科医師に、基礎、臨床研究のモチベーションと「元気」を与えたい。
演 者 和佐野 浩一郎(東京医療センター)
「バリアントを導入したペンドリンのin vitro機能解析から見えてきたこと」
演 者 伊藤 卓(東京医科歯科大学)
「モデルマウスを用いたPendred症候群の聴平衡覚障害の病態解明」
演 者 細谷 誠(慶應義塾大学)
「iPS細胞由来のヒト内耳細胞を用いたPendred症候群研究」
演 者 吉村 豪兼(信州大学)
「Pendred症候群に対する遺伝子治療の可能性」
ネクストジェネレーションセッション
「顔面神経麻痺診療における未解決領域に関する新しい挑戦」
モデレーター 和佐野 浩一郎(東京医療センター)
Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群を含む顔面神経麻痺について、原因、診断、急性期治療、後遺症治療など診療全般において、多くの点が科学的な裏付けがなされていないにも関わらず、我々耳科医はすでに理解していると思いこんでいる項目が多い。2011年に顔面神経麻痺診療の手引が出版され、どのようなエビデンスを元にどのような診療を行っていくべきなのかという指針が示されたが、強固なエビデンスのみを元に構成された欧米の診療ガイドラインとはステロイドの用量、抗ウイルス剤の位置づけ、顔面神経減荷術のあり方など多くの点が異なるものになっている。日本で発展を遂げている高強度・集学的な顔面神経麻痺治療の信頼性・妥当性を高めるとともに、鼓室内投与や神経再生誘導などの新しい知見を追加することで、顔面神経麻痺診療において世界をリードできるエビデンスを構築していくことができると考えられる。
そこで本企画では次世代の顔面神経診療を担うべく研究を進めている耳科医により、顔面神経麻痺診療の現状と将来像を明らかにし、今後の疾患理解および診療の向上に向かって進むべき方向性の提案を行うことを目指したい。まず松代先生が多くの診療情報を丁寧に集積した結果から導かれたこれまでの常識を覆すデータを提示することで問題提起を行い、それに続き解決策の提示として古川先生よりステロイド治療に関する試み、山田先生からQOL評価および鼓室内薬物投与に関する基礎研究および臨床成績について、最後に和佐野から診断法、評価法、治療法に至る一体的な急性期診療の流れを構築する試みについて紹介する。
顔面神経麻痺はCommon Diseaseであることから様々な診療科を受診し、受診した診療科により治療方針が大きく異なることが知られているが、麻痺病変の主座である側頭骨内顔面神経を扱うエキスパートである耳科医が主体的に取り組むべき疾患であると考えられる。本企画により問題点の整理と解決への方向付けを行うことにより、若手耳科医の顔面神経に関する研究への興味、意欲を増し、診療に積極的に携わる耳科医の増加および研究の進歩への寄与を期待したい。
演 者 松代 直樹(大阪警察病院)
「シン・顔面神経麻痺~これから様々な新説が登場してくる、待ったなしの領域~」
演 者 古川 孝俊(山形県立新庄病院/山形大学)
「ステロイド大量療法のエビデンス構築に向けた取り組みと内視鏡を用いた新規技術による取り組み」
演 者 山田 啓之(愛媛大学)
「当科における「未解決領域」に対する試み」
演 者 和佐野 浩一郎(東京医療センター)
「顔面神経麻痺急性期診療(原因診断・重症度評価・治療)に関する体系的な再構築への試み」
ネクストジェネレーションセッション
「加齢性難聴・加齢性平衡障害の疫学~認知機能との関連を中心に」
モデレーター 森田 由香(新潟大学)
超高齢社会を迎えた本邦において、加齢に伴う疾患は増加の一途をたどる。また、生活の質(QOL)を求める時代であり、高齢者においても例外ではなく、むしろ健康に長生きするためには、運動器、感覚器機能の維持は不可欠である。加齢に伴い認知機能が低下することもよく知られているが、近年、認知機能と加齢性難聴の関係が報告され、世界的に注目を浴びている。さらに、平衡機能に関しても、バラニー学会より加齢性平衡障害の診断基準が提唱され、加齢性平衡障害への介入も求められている。
高齢者の適切なきこえの評価、補聴器、手術による介入により認知機能低下を予防できるか、また加齢性平衡障害の適切な評価を行い、リハビリ介入によって、運動機能低下とともに認知機能低下を予防できるか、耳科学をあげて考えていかなければならない課題である。
本セッションでは、本邦における加齢性難聴の疫学調査を行っている施設からそれぞれの研究結果を報告していただく。さらに、岩木健康増進プロジェクト(青森県)からは加齢性平衡障害について、八雲町スタディ(北海道)からは耳鳴について、佐渡PROST(新潟県)からはアルツハイマー病の危険因子とされるApoE4遺伝子多型との関連についても報告する。また、国立長寿医療研究センターで行われている長期縦断疫学研究の中から、補聴器装用による認知機能への影響について報告する。本邦の疫学調査の結果を一堂に会し、健康寿命を支えるという観点から、高齢者の聴覚、平衡覚に対して耳科学が介入できることは何か議論したい。その上で、高齢者の聴覚障害・平衡障害に対してどのようなアプローチが必要であるかを考える機会としたい。
演 者 佐々木 亮(弘前大学)
「一般地域住民における加齢性難聴・平衡障害と認知機能との関連-岩木健康増進プロジェクトにおける検討-」
演 者 森田 由香(新潟大学)
「加齢性難聴と認知機能低下、ApoE遺伝子の関係について-佐渡プロジェクトにおける検討-」
演 者 吉田 忠雄(名古屋大学)
「一般地域住民における耳鳴のリスク因子の横断的検討-北海道八雲スタディより-」
演 者 杉浦 彩子(国立長寿医療研究センター/豊田浄水こころのクリニック)
「一般地域住民における難聴と認知機能との関連-NILS-LSAにおける検討-」
ネクストジェネレーションセッション
「人工聴覚器手術のTips & New developments」
モデレーター 高橋 優宏(国際医療福祉大学三田病院)
本邦における人工聴覚器医療は、1984年リオン型人工中耳が臨床研究として施行されて以降、1994年人工内耳が保険適応となり、さらに骨導インプラントBaha®、残存聴力活用型人工内耳 (EAS)、人工中耳Vibrant Soundbridge® (VSB)が保険適応となっている。また臨床研究として聴性脳幹インプラント(ABI)も施行されている。本邦への導入、発展に捧げられてこられた先生方のご尽力により社会全般に認知され、トラブルが極めて少ない安定した治療として施行できるようになってはいるが、平成26年度「人工内耳実態調査」では約4%の術中術後合併症が報告されているように各人工聴覚器においてまだ解決すべき課題はある。本企画では各演者がそれぞれ人工聴覚器施行症例を提示し、現在取り組んでいる人工聴覚器手術におけるコツ・トラブルシューティング・独創性のある臨床研究について報告する。そしてより安全・効果的な人工内耳聴覚器手術を目指して議論する。
演 者 南 修司郎(東京医療センター)
「人工内耳手術のTips & New developments〜内耳奇形の新しいGradingと合併症ゼロを目指して〜」
演 者 吉村 豪兼(信州大学)
「EASに学ぶ低侵襲人工内耳手術と周術期管理」
演 者 今泉 光雅(福島県立医科大学)
「聴性脳幹インプラント手術:適応及び術後経過も含めて」
演 者 我那覇 章(宮崎大学)
「人工聴覚器手術のTips & developments~術後合併症予防を目指したBaha手術法と骨導インプラントの今後~」
演 者 高橋 優宏(国際医療福祉大学三田病院)
「人工中耳VSB手術の新展開」
ネクストジェネレーションセッション
「蝸牛内免疫担当細胞の分布と機能および難聴発症における役割」
モデレーター 中西 啓(浜松医科大学)
蝸牛には免疫担当細胞は存在しないとされていたが、近年の研究により蝸牛にマクロファージ様細胞が存在することが明らかになってきた。現在のところ蝸牛に存在するマクロファージ様細胞の機能は明らかではないが、非症候群性遺伝性難聴やペンドレッド症候群において難聴の発症と関連することが報告されている。本企画では、蝸牛におけるマクロファージ様細胞の分布および機能について最近の知見を紹介するとともに、本分野の研究を進める上での課題を明らかとして、今後の方向性を提示できればと考えている。
本セッションでは、まず、難聴のモデル動物として利用されることが多いマウスにおいて、蝸牛のマクロファージ様細胞の起源および分布について紹介する。次に、非症候群性遺伝性難聴家系において、能動免疫に関与するNLRP3遺伝子の機能獲得型変異により、炎症惹起物質であるIL-1βが分泌されて蝸牛内炎症が生じ難聴が起こること、IL-1レセプター阻害薬を用いて治療することで蝸牛内炎症が消退し難聴が改善することを提示する。NLRP3遺伝子変異により蝸牛内炎症が生じるメカニズムについては、マウスを用いた研究で蝸牛のマクロファージ様細胞との関連が示唆されているので、その内容についても紹介する。さらに、マウス血管条に分布するマクロファージ様細胞の機能について紹介し、これらの細胞がペンドレッド症候群モデルマウスにおいて難聴と関連していることについて示す。最後に、これらの研究結果より、蝸牛内のマクロファージ様細胞の機能としてどのようなものが考えられるかを提示し、それを明らかにするためにはどのような研究をおこなえばよいかについて討論したい。
演 者 岡野 高之(京都大学)
「蝸牛内免疫担当細胞の局在と由来-特に組織マクロファージについて-」
演 者 川島 慶之(東京医科歯科大学)
「NLRP3遺伝子機能獲得型変異に伴う蝸牛の自己炎症応答-DFNA34の臨床像とIL-1受容体拮抗薬の治療効果」
演 者 中西 啓(浜松医科大学)
「マウス蝸牛組織における自然免疫応答の検討」
演 者 伊藤 卓(東京医科歯科大学)
「血管条に分布するマクロファージ様細胞の役割について」
ネクストジェネレーションセッション
「聴神経腫瘍における神経耳科学検査の進歩と応用」
モデレーター 大石 直樹(慶應義塾大学)
聴神経腫瘍は、蝸牛機能、前庭機能、顔面神経機能に影響を与え得る疾患であり、初発症状の多くは難聴、耳鳴、めまいなどの蝸牛前庭症状であるため、まずは耳鼻咽喉科を受診する患者が大半であると想定される。初診を担当する耳鼻咽喉科医にとって、どのような患者に聴神経腫瘍を疑って検査を進めるのか、がまず極めて重要な課題である。また、聴神経腫瘍と診断がついた後、小・中型の腫瘍ではまずは経過観察が選択される場合が多いが、めまい・難聴・耳鳴などの評価、対処は耳科専門医の守備範囲であり、小・中型腫瘍の経過観察の主体は脳神経外科ではなく耳鼻咽喉科医が担うべきである。
経過観察中の腫瘍に対して、どのタイミングで手術などの積極的治療に踏み切るべきか、に関する絶対的な基準は存在しないため、その判断は個々の症例によるところが大きい。そのため各症例の病状の正確な把握は必須であり、また将来の予後予測がより正確に行えるようになれば、治療法の選択基準をより明確にすることができる。さらには、実際に手術を行う場合、どのような症例で機能温存を達成できる可能性が高いのか、術後はどのような経過をたどる可能性が高いのか、に関する術前予測も極めて重要である。
各種神経耳科学的検査を施行し、その結果を解釈することは、医師側の神経耳科学的検査そのものへの理解が深まるという利点もある。近年、臨床検査全般に対する関心が必ずしも高くない風潮がある中、聴神経腫瘍における神経学的検査に精通することは、様々な神経耳科学検査への造詣が深まり、他疾患における検査結果を解釈するレベルを高めてくれることにもつながる。
以上の観点から、本企画においては、現在聴神経腫瘍臨床に取り組み、神経耳科学的検査に造詣が深い各先生方にご発表いただき、聴神経腫瘍臨床のレベルアップ、および神経耳科学的検査のレベルアップにつながるようなセッションを目指す。
演 者 和佐野 浩一郎(東京医療センター)
「多施設研究から明らかになった聴神経腫瘍における突発難聴の臨床経過」
演 者 稲垣 太郎(東京医科大学)
「聴神経腫瘍における平衡機能検査~隠れた前庭機能障害の「見える」化~」
演 者 稲垣 彰(名古屋市立大学)
「神経耳科学検査を活用した小聴神経腫瘍の治療戦略」
演 者 細谷 誠(慶應義塾大学)
「術前OAE/ABRに基づく聴力温存手術の適応と聴力予後、術中ABRの工夫」