大会長挨拶
運動器理学療法の未来へ向けた開拓~科学を技術へ~
大会長 対馬 栄輝
理学療法の学術的歴史背景をみると、“科学”と“技術”というキーワードは繰り返し扱われてきています。経験則から生まれた理学療法の技術に対して理論を後付けして体系化する、逆に構築した理論に基づいて理学療法の技術が生まれる、という両極端な手続きが混在しながらも、進歩してきました。いずれにおいても理論は徹底的に科学に基づかなければならないとの考えのもと、科学と技術の話題は尽きませんでした。
科学といえば、大半はExact Sciencesを思い浮かべるはずです。厳格な環境を準備し厳密な統制下で得られた実験データから導かれる、普遍性の担保できる理論こそ科学的理論と認めます。そうした科学的理論に基づく技術こそが理学療法の技術体系を確立すると信じられてきたはずです。理学療法学を確立するために解剖学、生理学や物理学の応用は枚挙にいとまがなく、またそれが王道ともいえるべき手段でした。このような歴史的経過を経て,いまなお科学と技術を改めて考える必要はあるか?という疑問を持つとしても不思議ではありません。しかし、科学と技術は時代背景によって変化しなければならないものです。
根拠に基づく理学療法(EBPT)という用語は浸透しており、まさに理学療法にとって『“科学に基づく”根拠』は不可欠のようにみえますが、この捉え方には十分な注意が必要です。科学の定義は未だ明確ではないうえに、Exact Sciencesは科学の一部でしかない以上、仮に現在の理論体系が精密な知見に基づくとして“科学に基づく”といえるでしょうか。理学療法の技術を確立させる科学とはどうでなければならないかを具体的に示す必要があると思います。これはまた、研究と臨床の乖離隔離としても表される原因かもしれません。
本学術大会では、改めて理学療法学を確立するために必要な、科学とは何か?技術とは何か?を再考し、運動器理学療法の未来へ向けた開拓のきっかけをつくろうと考えています。本学会の進むべき未来を共有し、運動器理学療法の発展に寄与できれば幸いです。