第45回日本嚥下医学会総会ならびに学術講演会(The 45th Annual Meeting of The Society of Swallowing and Dysphagia of Japan)_ SSDJ 2022 in Fukuoka, February 24-25

会長挨拶

第45回日本嚥下医学会会長 梅﨑俊郎
国際医療福祉大学/福岡山王病院音声嚥下センター
第45回日本嚥下医学会会長 梅﨑俊郎

この度第45回日本嚥下医学会会長を拝命しました梅﨑でございます。昨年度より日本嚥下医学会理事長も拝命しておりますが、この度の会長職はその前に兵頭前理事長よりご推薦いただいたものです。結果、理事長で会長職という身に余る大役を仰せつかることになりその重責を測りかねているところです。

2022年2月24日(木)〜25日(金)福岡開催予定としておりますが、本挨拶を書いている2021年4月時点では、10カ月後、新型(変異株含む)コロナ感染がどのような状況になっているのか予想だにできません。ウイズコロナからアフターコロナ時代の嚥下障害診療の変化から我々は何を学んだのかを忘れてはいけませんが、変異型が新たな脅威になりつつある今、ワクチンの普及でアフターコロナの時期に移行しているかどうかも甚だ疑問です。このコロナのパンデミックにより、わが嚥下医学の診療、学問領域は大きくしかも長期にわたり歪められています。今は状況的に仕方ないといってこのままでいいとは思っていません。

ご記憶の方は少ないと思いますが、私は実は今回が2度目の会長職でちょうど20年前の2002年4月にアクロス福岡で本学会前身の「第23回 日本嚥下研究会」を九州大学講師時代に主催させていただきました。嚥下研究会から嚥下医学会への過渡期で非常に議論の熱い時代でした。しかしながら私は懐古主義者でも経験至上主義者でもありません。今回のテーマは「原点回帰」といたしましたが、20年も前の研究者たちへの一定の尊崇の念はあっても懐かしんでいる気持などさらさらありません。むしろこの20年で嚥下や嚥下障害に取り組む研究者は格段に増加しました。ST(言語聴覚士)が国家資格化されてちょうど25年が経ちますが、まだ我が国で嚥下リハビリテーションなる用語すら耳にすることがまれだった時代です。今やそのSTは耳鼻咽喉科医の4倍の数にも達し、その最も多くの層が職種名とは裏腹に嚥下障害のリハビリテーションを担当しています。そうしてみると嚥下関連の学会の中でも第45回を数える本学会の歴史を感じて頂けるかもしれません。アメリカのDysphagia Research Society(DRS)創設の10年前に第1回嚥下研究会が開催されています。もちろん現在では当学会は耳鼻咽喉科医、言語聴覚士のみならず、リハビリテーション科医、脳神経内科医、歯科医、呼吸器内科医、消化器(食道)外科医、看護師、管理栄養士等の多職種、多科領域から構成されています。それではこの四半世紀に嚥下障害治療にとってなぜか皆が大好きでありながらありもしないエビデンスなるものが大量に蓄積されてきたでしょうか。答えはnoneです。嚥下リハビリテーションのエビデンスは一つの論文を除いてほとんどないといわれて久しいのは有名な事実です。リハビリテーションだけではありません。嚥下障害の病態診断、疫学的研究、外科的治療の選択、嚥下の侵襲的あるいは非侵襲的検査など、45回の歴史を重ねてきたとは言ってもまだまだこの領域は若い学問です。体系的に積み上げられた内科診断学や臨床神経科学とはわけが違います。嚥下障害を来たす原疾患は多いにもかかわらず症例ごとに病態が異なり治療方針が画一化されにくい性質を内在しているといえるでしょう。それでは、嚥下障害への対応がエビデンスに基づかなければ何を根拠に考えればいいのか。重要なのはこれまでに積み上げてきた嚥下のメカニズムの原理原則に立ち、帰すべきファンダメンタルを持っておくことだと思っています。それこそがこの学会の伝統であり創立の精神だと思います。ポスターに用いたテーマの「原点回帰」は自筆で心を込めて書かせていただきました。一人一人それぞれの原点を確立し、問題に直面した際にその人が蓄積してきたファンダメンタルに立ち返り、拠って立つ原理原則を確立する契機となってほしいという思いの現われです。

ここ何年もこの学会らしい活発な意見の交換ができていません。新型コロナへの対応を軽んじることなく、我々にはこの領域のトップランナーとしての走りを止めないことも日本嚥下医学会としての務めだと思っています。現在のところ、会長講演、シンポジウム2題、パネルディスカッション1題、海外招待講演2題さらに会場を変えてポストコングレスセミナーを予定しています。願わくは、対面での討論が実現できるよう祈りつつ。

令和3年4月吉日

第45回日本嚥下医学会会長 梅﨑俊郎