会長挨拶
第33回日本耳科学会総会・学術講演会
会長 池園 哲郎
埼玉医科大学 耳鼻咽喉科 教授
はじめに
このたび,「第 33 回日本耳科学会総会・学術講演会」を 2023 年 11 月 1 日(水)~ 4 日(土)の会期で,高崎市で開催させて頂くことになりました.日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の関連学会では最大規模である,この伝統ある本学会を担当させていただくことは,大変光栄であるとともに身の引き締まる思いであります.
本学会は日本臨床耳科学会と日本基礎耳科学会が合併し,1991 年 9 月 1 日に発足しました. 1992 年 2 月に埼玉医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科・川端五十鈴教授のもとに開催された日本耳科学会基礎学会,2003 年 10 月に恩師日本医科大学耳鼻咽喉科・八木聰明教授が第 13 回日本耳科学会を開催して以来20 年ぶりに本学会を主催させていただきます.
「臨床の第一線で活躍する医師から最先端の研究者まで,幅広い情報を発信する学会」をコンセプトに,臨床・研究最前線のテーマを取り上げました.学会のテーマは「扉を開く」です.リモート参加を余儀なくされたここ数年の経験から,現地で語り合うことで道は開かれ,そして臨床の難題を解決し,共同研究に結びつくと,改めて実感しました.本学会が皆様にとりまして「新しい扉を開く集い」となるよう願いを込めたテーマです.
会場は,群馬県高崎市に2020 年6 月に開所された「G メッセ群馬(群馬コンベンションセンター)」で,当大学からは北に 50 km 程のところに位置しております.高崎と埼玉医科大学病院は,八高線という風光明媚な里山を走る路線で直結しており,当科にも多くの患者さんが群馬から来院されています.本学会を開催する上で,充分な広さの確保と交通の利便性を考慮し,2 本の新幹線が乗り入れる JR 高崎駅から徒歩圏内である本施設を選択いたしました.講演会場,機器展示会場,懇親会などすべて上下の移動で網羅できます.
学会プログラムのご紹介
1.特別講演
国立研究開発法人理化学研究所の計算科学研究センター長・松岡聡先生をお迎えします.先生は,スーパーコンピュータ「富岳」を世界一の地位に押し上げた立役者として知られています.富岳は多くの分野で活用されており,例えば,皆さんが報道でよく目にする新型コロナウイルスの「飛沫・エアロゾル拡散モデルシミュレーション」もその業績の一つです.世界的にも高く評価され2021年のゴードン・ベル賞 COVID-19 研究特別賞を受賞しています.先生の講演では,飛沫拡散モデルの理論的背景だけでなく,自動車の空力特性とデザイン性を同時に満たす計算技術や,創薬分野では化合物を計算上で作成し,さらにスクリーニングする技術など,様々な新規技術についてもお話しいただく予定です.この講演は,無限の可能性を紡ぎ出す「新たな扉」を開く力を持つ松岡聡先生の知識と洞察に触れ,未来を形成する鍵となるインスピレーションを得るための特別な機会となると期待しています.
2.海外招待講演・国際セッション
学会の国際化が叫ばれておりますが,今回の 4 つの英語セッションでは,より理解を深めるため同一のテーマのシンポジウム,教育セミナーと続けて行ういわゆる「連動企画」に致しました.大規模な vestibular schwannoma データベースで世界的に知られるデンマークの Per Caye-Thomasen 先生の招待講演とそれに引き続くシンポジウムでは,VS の経過観察と手術・放射線治療,人工内耳,脳幹インプラントとNF2 に関する一連のテーマを扱います.カナダのIssam Saliba 先生は,メニエール病に対する新規治療術式Endolymphatic Duct Blockage を開発し,その奏効率の高さから注目を集めてEU地域では臨床試験が複数行われています.連動するシンポジウムでは,メニエール病,外リンパ瘻,上半規管裂隙症候群に対する手術治療を取り上げます.
シンポジウム「先天性外耳道閉鎖症・小耳症に対する治療戦略について」に続けてアジアパシフィックセッションを行い,日本,マレーシア,タイ,韓国から小耳症手術,骨導・軟骨伝導補聴器,外耳道形成術,人工聴覚器の治療戦略についてご講演いただきます.
昨年,我が国で国際学会が開催されたTEES については,教育セミナー「TEES ~今振り返る初心者だった頃の私のオペ」で経験豊かな専門家が貴重な経験を共有します.そして同様のテーマで国際的視点からTEES を語り合う日韓台セッションを行います.
3.臨床最前線パネルディスカッション(聴取者参加型)
本学会のコンセプトは「臨床の第一線で活躍する医師からの情報発信」,common disease である中耳炎・外耳炎をメインに取り扱います.この疾患の診断は奥が深く,多くの先生が治療法に悩む場面があると思われます.また新しい治療や疾患概念も誕生しております.「この鼓膜所見,あなたの診断は?」「外耳炎の治療から耳・鼓室・術前術後処置まで」の2 つの企画では多数の写真,動画を使用し,入念な事前準備が行われています.耳鼻咽喉科医師のみならず,皮膚科ドクターの演者からも様々なアドバイスを頂きます.
4.パネルディスカッション
耳科手術の真骨頂である「進展型の真珠腫性中耳炎」と「外耳道癌」を取り上げました.日常診療で常にその対応を議論する疾患で,外科的治療だけでなく,集学的アプローチを取り扱います.
5.耳科・鼻科ジョイントセミナー
「全身から診る耳・鼻の好酸球性炎症」というテーマで,耳科,鼻科それぞれの立場から講演頂きます.耳鼻咽喉科医が関わる全身疾患は多く,今回は難治例も少なくない好酸球性疾患に焦点をあてました.専門分野が異なるため,耳科学会ではなかなか聞けない鼻科学の最先端情報も紹介いただきます.
6.臨床研究,新規技術開発セッション
臨床研究とその実用化に関連して,パネルディスカッション,教育セミナー,ブースセミナーを企画いたしました.「中耳内耳診断治療新規技術開発」「臨床研究立案セミナー個別相談」「あなたのアイデア実用化 臨床研究立案セミナー」「大規模データを用いた研究手法について」の4 つがあり多様なディスカッションが期待されます.
臨床研究は多くの先生が経験していますが,その基礎を学ぶ機会は決して多くはありません.現在研究をしている先生,これからの研究を考えている先生へ,重要なポイント,効率よく研究が進むポイントなどを講演いただき,個別相談も開催します.研究成果を実用化するにはどうしたらいいか,この点も重要です.保険収載された薬剤,現在開発中の機器の経験を通して,実用化までどのような壁があり,それをどのように乗り越えるのか・そして乗り越えたのか,講演いただきます.レジストリ研究では,多数例の解析をする機会も増えており,データ解析に焦点をあてたセミナーも行います.
7.ダイバーシティ推進委員会企画セッション
男女共同参画の枠を超えた幅広い視点でダイバーシティを捉え,難聴者である耳鼻咽喉科医3 名を発表者として「難聴をもつ社会人のための羅針盤」を提案します.学生時代,社会人として経験した苦労や工夫,役立ったこと,当事者の立場だからこそできたこと,そして先を目指す原動力などを講演していただきます.
8.モーニングセミナー
朝一番から参加したい方に人気の時間帯です.顔面神経麻痺の予後改善に重要な「顔面神経麻痺のリハビリテーション ―病的共同運動と顔面拘縮に対するマネジメント―」,保険収載されたCTP 検査の開発から最新情報までをとりあげた「CTP 検査Up to Date」.そして,従来「委員会報告」と題していたセッションをとりまとめて,そしてより多くの先生方に聴講していただけるように「明日の臨床に活かす! ~耳科学会から最新情報~」と題してこの時間帯に行います.「あたらしい小児滲出性中耳炎診療ガイドライン~改訂のポイント」「どう選択する? 真珠腫乳突腔進展に対するアプローチ―新しい中耳真珠腫進展度M 分類から考える―」の2 つを報告していただきます.
9.教育セミナー,手術アドバイス,推奨演題
教育セミナーとして「続・耳科手術のコツ ―個人的な経験に基づく Tips 集―」「やさしい聴覚生理学 ―その 3―」「術前耳管機能検査法の実際」「新しいガイドラインに基づく顔面神経麻痺の実践的治療」を企画し手術,生理学,検査など幅広いテーマでエキスパートから講演していただきます.新たな企画の「あなたの手術,アドバイスします」では若手術者の動画を持ち寄っていただき匠の技を伝授します.今回,一般口演 211 演題,一般ポスター 97 演題 計 308 演題と多数の演題をご登録頂きました.「外リンパ瘻」「グロムス腫瘍」を推奨演題として募集し一般演題の中でセッションを設けました
10.Young Investigator Award(YIA)セッション
昨年新設された,40 歳以下の若手医師向けのセッションです.多数の申し込みがあった中で,学術委員が18 演題(基礎 6 演題,臨床12 演題)を採択しました.若手のモチベーションアップと,今後の耳科学会の発展に重要なセッションです.
終わりに
耳鼻咽喉科はコロナ禍の影響を大きく受けた診療科の一つであります.本年 5 月に新型コロナウイルス感染症が第5類に移行しました.現地で皆様にお目にかかれるのを楽しみにしております.耳鼻咽喉科の明るい未来に向けて前進する学会になるよう準備しております.群馬県には草津・伊香保・磯部・水上・四万などの温泉地があり,本学会は紅葉が美しい時期に開催されるため,学会前後には温泉と自然を満喫して頂ければ幸いです.医局員一同,心からお待ちしております.